小学校の英語教育が必修化!
2020年から、新学習指導要領にもとづいて小学校での英語教育が実施されています。
英語教育の重要性はかねてより指摘されてきたことですが、実際に小学校から英語教育が始まると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
この記事では、小学校英語教育が必修化された経緯やその内容、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。
- 目次
小学校の英語教育が2020年に必修化!
2017年3月に実施を告知されていた新学習指導要領が、3年の移行期間を経て、2020年4月から始まっています。「2020年の教育改革」とも呼ばれる新学習指導要領のなかでもとりわけ注目を集めているのが、小学校での英語教育必修化です。
今回の教育改革における目的のひとつが、今後ますます進展すると予想されるグローバル化に備え、国際社会で活躍できる人材を育成することです。そのためには、世界に通用する実践的な語学力を習得できるように、英語教育の強化や内容の刷新が不可欠とされています。
小学校で英語教育が導入されるのは3年生からです。3年生と4年生は「外国語活動」として、5年生と6年生は「外国語」という教科として採用されています。
新学習指導要領は、2020年からの小学校に続き、2021年には中学校、2022年には高校と、全国すべての学校で順次実施されていきます。
■参考文献
・文部科学省「新学習指導要領全面実施に向けた小学校外国語に関する取組について」
新学習指導要領で変わること
2020年の教育改革で、小学校の英語教育は具体的にどのように変化するのでしょうか。ここでは、新学習指導要領で変わることをわかりやすく解説します。
■参考文献
・文部科学省「小学校英語活動実施状況調査(平成18年新学習指導要領全面実施に向けた小学校外国語に関する取組について」
小学校3・4年生で年間35単位時間(週1コマ)の外国語活動
新学習指導要領におけるもっともわかりやすい変化が、英語教育の低年齢化です。これまでの学習指導要領では5・6年生のみが対象だった外国語活動が、小学校3・4年生を対象におこなわれます。
定められる授業時数は年35単位(週1コマ程度)です。「英語に親しむ」という目的のもと、コミュニケーションを重視した経験を通じて、聞く力や話す力を養います。
小学校5・6年生で年間70単位時間(週2コマ)の教科授業
小学校5・6年生では、これまで各小学校にゆだねられてきた外国語活動が、英語の「教科」として設定され、授業時数もこれまでの年35単位(週1コマ程度)から年70単位(週2コマ程度)と2倍に増えます。
授業では、「英語によるコミュニケーションスキルの基礎を養う」ことを目的に、より実践的な会話を中心とした内容に変わります。
小学校5・6年生から英語が「教科」として扱われる
外国語活動と「教科」としての英語の大きな違いは、通知表に成績がつくことと文部科学省検定による教科書が採用されることです。
英語の授業では、学級担任のほか、英語を専門とした専科指導の先生がつきます。さらにネイティブ・スピーカーの指導者を加えるなど、チームによる指導で質の高い英語教育を実践していきます。
モジュール授業を活用して年間70単位時間をクリアする
新学習指導要領では、小学校5・6年生から全授業時数のうち年70単位、週2コマ程度を英語に割く必要があります。しかし、限りある授業時数のなかで、週2コマを英語に割り当てるのは難しいとされています。
そこで、通常の授業に代わって採用されているのが、モジュール授業と呼ばれる短時間学習です。モジュール授業とは、たとえば通常45分の授業を15分のモジュールごとに分けて、3モジュールを1コマの授業とする考え方です。
5・6年生はこれまでも年35単位を外国語活動にあてているため、必要となる授業時数は残り年35単位となります。小学校で授業があるのは年間約35週ですから、始業前の15分をモジュール授業に活用すれば、無理のない時間割を組み立てらえるでしょう。
小学校英語教育の新学習指導要領
実践的な英語力を身につけるために、新学習指導要領では英語教育の早期化や授業時数の増加のほか、指導内容の刷新も求められています。それでは、これから小学校でおこなわれていく英語教育の内容について、新学習指導要領にそって解説します。
■参考文献
・文部科学省「【外国語活動・外国語編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説」(P29~/P78~)
小学校3・4年生の英語教育では「聞く」、「話す(やりとり・発表)」が中心
小学校3・4年生の外国語活動では、クイズや歌、ダンスなどを通じて英語に触れる活動型学習が実施されます。英語に慣れ親しむとともに、これから本格的に始まる英語学習への意欲を高めるのが目的です。
活動型学習では「聞く」と「話す(やりとりや発表)」が中心となっており、教材に教科書は使わず、実際に声を出すことによるコミュニケーションが主体です。日常生活で使われるような挨拶や会話などを学び、かんたんな英会話を身につけます。
それほど高度な内容ではないこともあり、授業は基本的に学級担任がおこないます。
小学校5・6年生の英語教育では「読む」、「書く」が加わる
教科として英語を学ぶ小学校5・6年生では、中学年での「聞く」、「話す(やりとりと発表)」といった発声によるコミュニケーションに、「読む」、「書く」の表現が加わります。
学習内容には、従来は中学校で学ぶ文法も含まれており、疑問詞や代名詞、助動詞、動詞の過去形なども習得します。また、小学校卒業までに300~600語程度の語彙力を身につけるという目標が掲げられています。
これまでの外国語活動にくらべて高度な内容となっている理由は、新学習指導要領では小・中学校における英語教育の連携を目指しているためです。中学校からの英語学習と連続性を持たせることで、高校卒業までにより高度な英語力を養うことが期待されています。
中学年よりも主体的なコミュニケーション能力を身につける
小学校5・6年生では、3・4年生で身につけた初歩的なコミュニケーション能力をさらに引き上げることを目指しています。英語と日本語の表現の違いを理解したり、文法や語彙といった知識を増やしたりするだけではなく、実際に使えるようにするのが目標なのです。
そのために、高学年の授業では、専科指導の教師やネイティブ・スピーカーの講師と協力し、英語での発信や聞き取りを積極的に取り入れます。
たとえば、地域のよさを英語で話し合ったり、英語による日常会話を聞き取ったりなど、生徒にとって身近なテーマから主体的なコミュニケーション能力を身につけていきます。
日本の英語教育の現状
日本人はこれまでも、中学校や高校を中心に、英語教育に取り組んできました。しかし残念ながら、国内外でコミュニケーションを図れるほどの英語力が身についているとはいえないようです。
たとえば2019年のTOEFLの平均スコアを見てみると、日本はアジア諸国のなかで下から3番目です。英語を母国語としないヨーロッパ諸国にも大きく差をつけられており、これまでの英語教育では十分な効果があらわれていないことが示されています。
英語力の高い国々と日本との違いのひとつとして、早くから小学校における英語教育の実施が進められてきた事実があります。1996年にはタイ、1997年には韓国、2001年には中国など、英語教育の充実は今や国家戦略となっているのです。
実はこれまでの学習指導要領でも、小学校での英語教育は実施されていました。実際、文部科学省の調査によると、2006年には95.8%もの公立小学校で何らかの英語活動を実施していることがわかっています。
しかし、当時の学習指導要領における英語教育の目的は国際理解にとどまるうえ、教育内容は各小学校の判断にゆだねられることから、小学校による偏りの大きさが課題となっていました。こうした課題を改善し、英語教育の拡充を目指すのが、今回の新学習指導要領なのです。
■参考文献
・TOEFL iBT®「Test and Score Data Summary 2021」
・文部科学省「小学校英語活動実施状況調査(平成18年度)」
英語教育の前倒しによるメリット
小学校から英語教育を本格化することには、さまざまなメリットがあるといわれます。ここでは主なメリットを3つにしぼって紹介しましょう。
英語に親しむ時間が増える
1973年にアメリカ国防省の付属機関がまとめた資料によると、日本語を母国語とする日本人が日常生活に困らないレベルの英語力を身につけるには、およそ2,400~2,700時間の学習が必要であると示しています。
旧学習指導要領における学校教育では、小中高に大学を加えたとしても、英語の学習時間は1,000時間にも満たないとされており、圧倒的に時間が足りていなかったのです。
今回の新学習指導要領で英語教育を小学校に前倒しすれば、英語に親しむ時間が増えるため、足りない学習時間を補うことができるのです。
日本語に囲まれた生活を続けるほど、英語をはじめとする外国語の習得に対して抵抗感を増していきます。小さな子どもは英語に抵抗感を感じることなく、素直に学習を受け入れやすいため、できるだけ早い段階で英語学習を始めるほうが知識の吸収につながります。
日本語を介さずに考える「英語脳」が育つ
語学者レネバーグは、言語は12~13歳までに習得され、それ以降はスムーズに吸収されなくなるとの仮説を立てています。このことから、臨界期となる12~13歳、つまり小学校高学年までに本格的な英語学習をおこなうことは、英語脳を養うのに有効なのです。
英語脳とは、脳内で日本語に変換することなく、英語を英語としてダイレクトに理解することを意味していますが、中高生になってからでは英語脳を育てるのは難しいとされています。
さらに、日本語と英語は周波数帯が異なるため、英語特有の発音やイントネーションを聞き分ける「英語耳」の習得も、実践的な英語を身につけるカギを握ります。小学生のうちから少しでも多くの英語に触れておけば、英語耳を育てることにもつながります。
■参考文献
・J-Stage「言語習得の臨界期について」
英語を通じて文化的な多様性に寛容になる
人は未知のものに対して、恐怖や偏見を抱きがちです。とりわけ日本は海に囲まれた島国ですから、外国に対して勝手な思い込みを抱いてしまうことも多いかもしれません。
英語は世界で広く使用されている言語です。その英語を、考え方が柔軟な小学生から学習していれば、多様な文化を理解するキッカケとなります。
ストレートな感情表現やオーバーなリアクションなど、英語には日本人にはない性質や特徴が多々あります。英語学習を通じて日本語との違いを知ることも、文化的な多様性や、寛容な心を育むでしょう。
英語教育の前倒しによるデメリット
これからのグローバル化社会を考えると、メリットばかりと考えられがちな小学校からの英語教育ですが、いくつかのデメリットも指摘されています。
教員の指導力不足の可能性がある
小学校での英語学習でもっとも大きな課題とされているのが、教員の指導力不足です。新学習指導要領では高学年での学習内容が難しくなっていることもあり、現場に立つ教員にとっても、どのように授業を進めるべきか、不安が大きいようです。
教員の指導力を高めるため、文部科学省によって研修が進められています。しかし、そもそも現状でも多忙な小学校教員が、英語の授業の準備や研修のために時間を割くのは困難だともいわれています。
こうした問題を解決するために、高度な英語力を有する専科教師の確保が急務です。
日本語の論理的思考力が伸び悩む可能性がある
小学生は、英語だけではなく、日本語にとっても大切な言語学習のチャンスとなります。このタイミングで本格的な英語学習を始めてしまうと、日本語の習得が不十分になる可能性が考えられます。
母国語である日本語は、国語や算数など、すべての教科で基礎となるものです。その日本語が未熟なままだと、日本語ならではの論理的思考力がおろそかになり、成績に影響することもあるようです。
ただし本来、英語は非常に論理的な言語です。適切な指導と正しい理解があれば、論理的思考力が身につきやすいとされています。
小学校の英語教員になるには
小学校からの英語学習をより充実したものにするには、高い英語力を持つ専科教師の存在が不可欠です。一方で、留学経験がある、語学を専門に勉強してきた、といった理由から小学校で英語教員として働きたいと考える方も多いでしょう。
それでは最後に、小学校で英語教員になるための方法を紹介します。
英語指導者の資格を取得するのがおすすめ
小学校教員になるには教員免許が必要ですが、専科教師として英語を教えるのに教員免許や特別な資格は不要です。ただし、限られた時間で子どもたちに英語を指導するには、英語力はもとより、確かな指導力が求められます。
そこで今注目されているのが、「J-SHINE(特定非営利活動法人 小学校英語指導者認定協議会)」による資格認定です。J-SHINEは、小学生に対する英語の指導力を備えた人材を認定し、教育現場を支える体制づくりを目的に、2003年に設立された団体です。
2019年9月現在、J-SHINEに登録された資格者は40,000人以上で、その一部の資格者が学級担任をサポートする立場として人材として活躍しています。
■参考文献
・アルク英語教育実態レポート Vol.15「J-SHINE×アルク協同調査レポート(2019年12月)」
J-SHINEの認定資格は全6種類
J-SHINEによる小学校英語指導者の資格は、J-SIHNEが認定する団体による講座を修了し、その団体からの推薦を受けることが原則となっています。また、資格は習熟度に合わせて次の6段階に分かれています。
「小学校英語準認定指導者」資格 | 指導時間の経験は不足しているが、指導者として一定の技能と知識を有する。指導時間が50時間を超えると「小学校英語指導者」に資格の書き換えが可能。 |
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「小学校英語指導者」資格 | J-SHINEの認定する資格の基本。小学校での英語指導に対して十分な能力を有する。 |
「小学校英語上級指導者」資格 | 「小学校英語指導者」を取得後4年以上経過し、なおかつ、小学校での活動時間が200時間を超えており、校長もしくは教育委員会、J-SHINEが優れた有資格者として認めるもの。 |
「英語指導者育成トレーナー」資格 | 指導者を育成する立場としての知識や技能を有する。 |
「小学校英語指導者+(プラス)」資格 | 小学校で英語教育をおこなうのに必要な知識と技能、さらに50時間以上の指導経験とCEFR(セファール)でB2レベル以上の英語力を有する。 |
「小学校英語上級指導者+(プラス)」資格 | 「小学校英語指導者準資格」もしくは「小学校英語指導者資格」を取得後、200時間以上の小学校での指導経験、校長もしくは教育委員会の推薦、さらにCEFR(セファール)でB2レベル以上の英語力を有する。 |
■はじめて小学校で英語を教える先生の悩みに
・先生のための小学校英語ABC
資格を取得したら活躍の場を探そう
小学校英語指導者の資格を得たら、さっそく能力を生かして活躍できる場所を探しましょう。資格を認定するJ-SHINEのホームページでも募集告知はありますし、最近は自身で地域の小学校などに問い合わせて、採用に至るケースが増えているようです。
とはいえ、J-SHINEの募集告知はそれほど多くはなく、また、小学校に直接アプローチしてもタイミングよく採用に至るとは限らないかもしれません。そんなときには、教育関係で働きたい方を応援する求人・転職サイト「イストEMPS」の利用がおすすめです。
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小学校英語教育で多様性を学ぶ
新学習指導要領にそって、2020年から小学校でも英語が必修化され、英語教育は大きな変換点を迎えています。
小学校3・4年生から外国語活動が始まるとともに、5・6年生では英語を教科として位置づけ、通知表に成績がつけられるようになりました。確かな英語力を養うために、小学校の英語学習では、担任のほか、英語の専科教師の存在も重要です。
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■参考文献
・文部科学省「新学習指導要領全面実施に向けた小学校外国語に関する取組について」
・TOEFL iBT®「Test and Score Data Summary 2021」
・文部科学省「小学校英語活動実施状況調査(平成18年度)」
・文部科学省「新学習指導要領全面実施に向けた小学校外国語に関する取組について」
・文部科学省「【外国語活動・外国語編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説」(P29~/P78~)」
・J-Stage「言語習得の臨界期について」
・アルク英語教育実態レポート Vol.15「【J-SHINE×アルク協同調査レポート(2019年12月)